2011年9月28日水曜日

試験にでるよ

 東広島市の公立学校は二学期制です。中学生たちは期末テストが終わり、答案が容赦なく(?)返され一喜一憂しています。V君に「どうだった?」と聞いたら、恥ずかしそうに見せてくれました。国語、美術などは予想通り(?)。美術のテストは言葉(単語)で答えるものが多く、記号選択式はほとんど無し。完全にお手上げ!!でした。数学は75%の出来。本人は常日頃「数学『大』好き!」と豪語(?)しています。母国で中学生課程を終了しているという強みもあります。今回のテストは計算問題が多かったということもあります。それでも来日6ヶ月なのですから、これはお見事『大』拍手です(はて、ここに『大』を使っても良いのだろうか?→参照:本ブログ「U-18の中学生(以上)たち』(8月8日))。しかし、前回のブログ(9月14日)の反省通り、「ここは計算間違い、この言葉は前に教えたから出来るはず!勉強が足りない!本当は80点以上とれている!」と、手加減抜きで答案の見直しをしました。
 
 今回のテストで、数学以上に彼の頭の良さ(?)を見せつけられたのは理科でした。
その問題の指示は「〜〜〜について『言葉』で説明しなさい」
模範解答は「滑車を使っても使わなくても、仕事量は変わらない」
 彼はこれを絵(図)を使って表しました。おおきなマルがついています。どうやら理科の先生は、話のわかる(?)人のようです。


 でも・・・これが高校入試だったらどうなるのでしょうか?問題の指示通りではないから、正解にはならないだろうなあ・・・入試は競争だからなあ・・・でも彼は『わかっている』んだけどなあ・・・


 滋賀県のセスタバジカのブログで、敬愛するよしもとさんが書いていました(「あぁいつもどおり」)。中学生、特に中学3年生と勉強していると、つい「これは高校入試に必要だからね、とりあえず覚えようね、とにかくここだけはできるようになろうね」となってしまいます。今の入試制度ではどうにもならないことは百も承知なのですが、なんだかむなしいです。でもこういうことが出来る子が、「日本語ができないから」落とされてしまったら、これは残念な気がします。高校だってこういう子が入学したら、ほかの生徒の刺激になって、大いなる恩恵(?)があるのではないでしょうか。う〜ん、どうにかならないものでしょうか。とは言いつつ、日本語もままならないV君に「入試を考えたら、英語(大キライ)もやらなきゃダメ!!!」と言って、毎日ため息をつかせているのが、わたしたちヤッチャルのメンバーです。V君「高校に受かったら、じっくり勉強しようね」(なんか矛盾してますよね)(

2011年9月14日水曜日

自分は頭が悪いから・・・

  見学シリーズ第二弾をお届けします。9月10日(土)、滋賀県の琵琶湖東岸地方を訪れました。彦根、八日市、近江八幡、このあたりではたくさんの日系ブラジル人が働いています。その子どものための私立のブラジル人学校、ブラジル人保育所などもありますが、どこも大変な経営難です。設備、授業、教員、給食、送迎、何一つ満足できる状態ではありません。


 今回案内してくれたのはHさん。昨年のJIAM研修で知り合いました。小中学校の日本語指導者として15年。現在三つの学校を掛け持ちで教えています。加えて毎週土曜日は、U−18と同じスタイルの自主運営サポート教室でボランテイア。さらに母語(ポルトガル語)教室開設にもこぎつけました。その行動力には本当に頭が下がります。


 八日市の教室(土曜午後)に来ていた中1の男子生徒は、Hさんが学校でも指導しています。彼がブラジルから日本に来たのは小学校4年の時。滞日3年が経過しました。
 まずは英語の否定形の勉強からスタート。He is not~~.He isn't~~. He's not〜〜.などの使い分けには「何でこんなにいろいろあるの?ややこしすぎるよ!!」
 彼の話す日本語はゆっくりでたどたどしい感じがしますが、言いたいことはそれなりに言えている感じです。来日3年のコミュニケーション能力としてはまずまずでしょう。しかしHさんによれば、やはり教科学習では非常に苦労しているとのこと。彼曰く
「試験では数学が50点台、理科が30点台、国語は14点だった」
 これを聞いて私は「とてもよくやっているね」と反応してしまいました(U-18でも国語一桁、数学30点なんていうのは普通です)でも彼は不満そうな顔をしています。
「こんな点じゃ、ぜんぜんたいしたことないよ。みんなもっといい点とっている」
私の反応は日本語が不十分な中でという条件をつけたものです。しかし子どもには子どもなりのプライドが有ります。本当にごめんね。そして彼はこうも言いました。
「ぼくの頭が悪いから、こんなに勉強ができないんだ・・・」
“頭が悪いから”Hさんが一番気がかりなのがこの言葉です。彼は普段からよくこう言うのだそうです。そんな彼に対して、Hさんは
「テストで点がとれないのは、あなたの頭が悪いからではない。日本語もポルトガル語も思うようにならないあなたをきちんと指導できる人が残念ながら誰もいないの。本当にごめんね。あなたは何も悪くないのよ。私もポルトガル語ができなくて申し訳ないけど、いっしょに勉強していこうね」 
 彼の歴史の教科書にはルビがびっしりふられています。Hさんが彼のリクエストに応えて少しずつ書いてあげているそうです。しかし徳川家康すら知らない子どもたち(隣で勉強していた中3グループがそうでした)に、歴史の勉強は重荷でしょう。読むだけ書くだけでは時間の無駄のような気がします。Hさんも内心、日本語の基礎固めや数学、歴史より地理をやる方が良いと思っているそうですが、みんなと同じことをやりたいという彼の気持ちもわかると言います。


 ふたつの言語の世界に生きる子は、“一時的に”ダブルリミテッド(どちらの言語も不十分な状態)に陥ります。そのような子どもがどのような問題を抱え、どのような気持ちでいるのか、彼を見ていると非常によくわかります。ダブルリミテッドは、ほっておいても時間がたてば解消できるものではありません。子どもたちが一番必要としているのは『適切な指導』です。しかし「だれも適切に指導できる人がいない」というHさんの言葉。本当に重くのしかかってきます。(


追伸その1
http://blog.goo.ne.jp/cestabasica/e/f21307ce4cca7171ac3ef9512530d251
案内してくださったHさんもあの子のことを書いています。あわせてお読みいただければ幸いです。セスタバジカは滋賀県の市民団体です。リンク集に加えましたので、是非皆さん訪問してくださいね。
追伸その2
リンク集を作りました。のしろ、滋賀、今後もどんどん交流を広げていければなと思います。

2011年9月8日木曜日

トップの見識

 随分ご無沙汰してしまいました。U-18は夏休み活動が無事終了し、9月6日(火)から通常活動体制に戻っています。


 9月7日、愛知県豊田市の日本語教室を覗いてきました。案内してくださったのは名古屋大学とよた日本語学習支援システムのK氏です。ヤングナイスガイ(?)で地元愛知県をこよなく愛しているとお見受けしました。


 その教室はある製造業の企業内で開かれています。学習者はブラジルから来た日系人の方々で、授業の雰囲気はとても和やかでした。
 一企業が社員のために日本語教室を開くというのは、東広島市ではほとんど聞いたことがありません(事業団がやっている日本語教室に、企業の担当者が社員や研修生を何人かまとめてつれてきたことはあります)。豊田市の企業はさすがに意識が高いなと思っていたら、K氏が興味深いことを教えてくれました。
「企業の日本語教室というと、まずは仕事に必要な日本語を教えるということになりますよね。企業の期待はそこにあるはずだし、学習者もそう思うでしょう」
「本当にそれでいいのでしょうかね。生活に必要な日本語、学習者のニーズにあった日本語も取り入れたいところです。でも会社の目(?)が気になりますね」
「ある時、一人の重役さんが、“専門でない”日本語を学習しているところを見学したんです。その方が『こういうのはとても良いですね』と言ってくださいました。これで安心して(?)指導出来るようになりました」
 私が参加したグループは『自分が日頃どんなものを食べているか』というテーマで学習しました。確かに『企業で直接必要な日本語』ではないトピックです。肉、サラダ、豆をかけたご飯、お茶というのが皆さんの食事の定番でした。なるほどブラジルの味ですね。私自身、料理や食べ物には人一倍興味がありますから。一緒に学習したKZさんと話が弾みました。


 この日本語教室は、日勤の後、夜勤の前という時間に開かれます(時間延長は一切出来ません)。働いてくたくたになった時、日本語教室で学ぶことまで仕事のこととなれば、誰しも(本音は)うんざりでしょう。「そんな言葉もおぼえてないの」なんて、同僚から(何せ学習者はすべて同僚ですから)言われてしまうかもしれません。加えて「おまえ先週欠席したな」なんていう監視(?)機能が働くこともあるそうです。このあたりはいろいろな人が参加する町の日本語教室とはちょっと違いますね。
 仕事で必要な日本語を身につけることは大切です。しかし、そういう直接的なことでなくても、日本語教室が楽しく、居心地が良く、もっともっと日本語を覚えたいと思えたら、それは労働意欲向上にもつながるのではないでしょうか。
 いち企業が自社の従業員のために日本語教室を開き、その内容も決して仕事優先ではなく幅広い。それもこれも企業のトップの見識(とツルの一声)があればこそ。なんかとても考えさせられる見学となりました。


K さん、本当にありがとうございました。例のマンガ、見つかりましたか?東広島でお会いするのを楽しみにしています。光に満ちた瀬戸内海にも再会してくださいね。(♪)