2011年9月14日水曜日

自分は頭が悪いから・・・

  見学シリーズ第二弾をお届けします。9月10日(土)、滋賀県の琵琶湖東岸地方を訪れました。彦根、八日市、近江八幡、このあたりではたくさんの日系ブラジル人が働いています。その子どものための私立のブラジル人学校、ブラジル人保育所などもありますが、どこも大変な経営難です。設備、授業、教員、給食、送迎、何一つ満足できる状態ではありません。


 今回案内してくれたのはHさん。昨年のJIAM研修で知り合いました。小中学校の日本語指導者として15年。現在三つの学校を掛け持ちで教えています。加えて毎週土曜日は、U−18と同じスタイルの自主運営サポート教室でボランテイア。さらに母語(ポルトガル語)教室開設にもこぎつけました。その行動力には本当に頭が下がります。


 八日市の教室(土曜午後)に来ていた中1の男子生徒は、Hさんが学校でも指導しています。彼がブラジルから日本に来たのは小学校4年の時。滞日3年が経過しました。
 まずは英語の否定形の勉強からスタート。He is not~~.He isn't~~. He's not〜〜.などの使い分けには「何でこんなにいろいろあるの?ややこしすぎるよ!!」
 彼の話す日本語はゆっくりでたどたどしい感じがしますが、言いたいことはそれなりに言えている感じです。来日3年のコミュニケーション能力としてはまずまずでしょう。しかしHさんによれば、やはり教科学習では非常に苦労しているとのこと。彼曰く
「試験では数学が50点台、理科が30点台、国語は14点だった」
 これを聞いて私は「とてもよくやっているね」と反応してしまいました(U-18でも国語一桁、数学30点なんていうのは普通です)でも彼は不満そうな顔をしています。
「こんな点じゃ、ぜんぜんたいしたことないよ。みんなもっといい点とっている」
私の反応は日本語が不十分な中でという条件をつけたものです。しかし子どもには子どもなりのプライドが有ります。本当にごめんね。そして彼はこうも言いました。
「ぼくの頭が悪いから、こんなに勉強ができないんだ・・・」
“頭が悪いから”Hさんが一番気がかりなのがこの言葉です。彼は普段からよくこう言うのだそうです。そんな彼に対して、Hさんは
「テストで点がとれないのは、あなたの頭が悪いからではない。日本語もポルトガル語も思うようにならないあなたをきちんと指導できる人が残念ながら誰もいないの。本当にごめんね。あなたは何も悪くないのよ。私もポルトガル語ができなくて申し訳ないけど、いっしょに勉強していこうね」 
 彼の歴史の教科書にはルビがびっしりふられています。Hさんが彼のリクエストに応えて少しずつ書いてあげているそうです。しかし徳川家康すら知らない子どもたち(隣で勉強していた中3グループがそうでした)に、歴史の勉強は重荷でしょう。読むだけ書くだけでは時間の無駄のような気がします。Hさんも内心、日本語の基礎固めや数学、歴史より地理をやる方が良いと思っているそうですが、みんなと同じことをやりたいという彼の気持ちもわかると言います。


 ふたつの言語の世界に生きる子は、“一時的に”ダブルリミテッド(どちらの言語も不十分な状態)に陥ります。そのような子どもがどのような問題を抱え、どのような気持ちでいるのか、彼を見ていると非常によくわかります。ダブルリミテッドは、ほっておいても時間がたてば解消できるものではありません。子どもたちが一番必要としているのは『適切な指導』です。しかし「だれも適切に指導できる人がいない」というHさんの言葉。本当に重くのしかかってきます。(


追伸その1
http://blog.goo.ne.jp/cestabasica/e/f21307ce4cca7171ac3ef9512530d251
案内してくださったHさんもあの子のことを書いています。あわせてお読みいただければ幸いです。セスタバジカは滋賀県の市民団体です。リンク集に加えましたので、是非皆さん訪問してくださいね。
追伸その2
リンク集を作りました。のしろ、滋賀、今後もどんどん交流を広げていければなと思います。