2011年10月28日金曜日

余る と 足りない

 今週のU-18で難問に出くわした.中学1年生の数学で一次方程式の文章題.


問題1「何枚かの紙があり生徒に配ります.一人に4枚ずつ配ると3枚余り,6枚ずつ配ると7枚足りません.生徒は何人いるでしょう?」生徒の人数をXとして式を立てると4X+3=6X−7 X=5 答えは5人となる.


問題2「料理教室で材料費を集めることになりました.一人300円ずつ集めると800円余ります.200円ずつ集めると400円足りません.料理教室の生徒は何人でしょうか?」生徒の人数をxとして式を立てると300X−800=200X+400 X=12 答えは12人.


 IRさんは日本に来て2年.日本語のおしゃべりはとても上手だし,勉強もしっかりやっている.漢字の読み書きも随分できるようになった.母語での思考力もある.そのIRさんが考え込んでいる.「同じ『余る』なのに,どうして問題1では足し算になって,問題2では引き算になるの?」同様に『足りない』も問題1では引き算で,問題2では足し算になる.


 数学(算数)の文章題では,問題文をきちんと読んで意味をつかまえないと式が立てられない.余る=足し算,足りない=引き算のように,機械的に覚えるだけではだめだ.こういう問題に出くわすと,算数・数学は言語力(この場合は日本語力というより国語力か??)がないと出来ない!!ということがよくわかる.まあこの問題は日本人の中学生でも混乱するだろう.こういう疑問がもてるということは,IRさんの日本語力(数学力)が優れているということかもしれない.
 
 この日は学生ボランテイアがたくさんいた.みんな悪戦苦闘で説明したが,IRさんには,なかなかピンと来て貰えなかった.日本語教育を目指す学生さんたちには貴重な体験になったと思う.もちろん私もとても良い勉強になった(

2011年10月14日金曜日

日本語習得方法いろいろ

 日本に来て,初めて日本語に触れて,日本語を使わざるを得なくなって,日本語をどうにか身につけていく子どもたち.子どもによっていろいろな習得のプロセスがある.


 前回に続いてAI君に登場してもらおう.彼は経験アンテナ派だ.小学校高学年で日本に来てから,(テキストなどを使って)系統だった『日本語』の勉強をしたことはない.だから動詞のⅠグループ,Ⅱグループなんて言っても??だし,辞書形,ナイ形,テ形・・・もほとんどわかっていない.小学校での取り出しは,漢字や国語の教科書を使っての読み方や言葉の勉強だった.U-18でも教科の勉強中心だ.
 そんな彼に,最近何回か日本語のテキストに載っている練習問題をやらせてみた.文法チェックはほぼ完璧.動詞の言い換え(マス形,ナイ形,テ形など)もパーフェクトである.彼の真骨頂が出たのは「〜〜の時,『失礼します』と言います」という文を作る問題.「しょくいんしつ(職員室:漢字は書けませんでした)にはいるとき,失礼しますと言います」日本の中学校は礼儀にうるさいからねえ.まさに,日々の生活の中で,実践的に身についた日本語だ.文法チェック,動詞の言い換えも,ルールがわかって言い換えているのではなく,こういう時はこう言うよ!つまりシチュエーション(というか本能的に)で理解している.この言い方はおかしい,こういう時はこう言う!これに理屈はいらない(実は私の非常に親しい人間で,外国で現地語で数年間勉強した人も同じことを言っている.黙読では微妙な時も口に出して言えばわかるのだそうだ).
 彼が日々触れている日本語の量は膨大だ.教室,運動部だけでもすごいのに,TV大好きときている.一番のお気に入りは「世界の果てまで行ってQ!」,「にほんごであそぼ」もずっと見ていたそうだ.


 一方,来日半年,中3で超理系頭の持ち主VT君(9/28のV君改め)は理詰め文法派だ.彼は,自分の頭の中の辞書(文法書)にない言い方を耳(目)にすると,必ず「それ何形?どうやってつくるの?」と質問してくる.この間も「どうやったら「読む」が「読める」になるの?」.こういう質問が出た時,U-18ではがばっちり指導する.一気に可能形の作り方をマスターし,たくさんの動詞で使えるようになる.VT君は,理詰めで納得するタイプである.
 昨日は「い形容詞」を変化させる問題(10問くらい)で戸惑う友だちに,「おもしろい→おもしろかった,おもしろくなかった,でしょ!ぼくより長く日本にいるのになんでわかんないの?」ときた.確かに理詰め派はこういう問題には強い!でもねぇ〜〜
 外国から日本に来て,戸惑うことばかり,出来ないことばかりの子どもたちにとって「良い意味での優越感」は大切だ.こう言ってしまう彼の気持ちはよくわかる.ちょっとくらい自分の方が出来る(優る)ことがなければ,やってらんないよね.
 とは言ってもVT君,今後日本で生きていくのなら,このあたりはもう少しうまく振る舞った方がいいんじゃないかなあ.だんだんわかってくるとは思うけど・・・しばらくはVT君から目を離さない方が良さそうだ.(



2011年10月12日水曜日

子どもの苦労をわかってよ

 AI君は元気な中学生.日本に来て1年半が過ぎた.U-18中学生組の中で,ただ一人運動部に所属している.チームスポーツ,毎日練習,学年全員(一ケタ)でどうにかチームが組めるという部活である.これでは,いや(?)でも日本の学校にどっぷり浸からざるを得ない.友だちが出来ず孤立しがちな外国人の子どもの中では,異色の存在だ.
 昨日は秋休みだったので,いそがしい彼が久しぶりにU-18にやってきた.なんだか浮かない顔をしている.前期期末テスト(9月)の成績のことで,お父さんに怒られたと言う.彼にとってお父さんは絶対の存在である.テストは得意の英語(母国で学習経験あり)は90%以上,数学,社会,理科は30〜40%.来日1年半の中学生ということを考えれば,それほどひどい点数ではない.「よくやっているね」とほめてあげてもいい(ほめ方に注意が必要ではあるが→本ブログ9/14参照).運動部で鍛えられた(?)せいか,日本語の力も知らない間に驚異的にアップしていた.話す方はモーレツな早口のせいもあって,まだまだの部分も多いが,『みんなの日本語』の文法チェックをほぼ完璧に解答したし,動詞の変化もバッチリだった(非常に興味深い部分なので,この話はまた改めて書いてみたい).そんな彼でもどうにもならないのが国語だ.お父さんは「せめて50点とれ!」と言うそうだが,今回の彼の点数からは,まったくかけ離れた目標設定である.
 AI君のお父さんはなかなか教育熱心だ.お父さんは日本で苦労はしただろうが,今では自営業を切り盛りする,いわば成功者だ.努力を重ねたお父さんから見れば,あの点数は不甲斐ないのだろう(もちろん心配なのだが).経済的に安定している(AI君に家庭教師をつけている)こと,男の子への期待など,彼への期待値が高いということもある.
 しかし,来日1年半,日本に来るまで漢字とは無縁.これで『中学の国語』で50点とれと言うのは無謀だ.現実が全く見えていないと言わざるを得ない.これでは子どもがかわいそうだ.
 先日(10月1日)の講演会でも,「バイリンガル環境に暮らし,母語でない言語で学習する子どもたちが抱える大変さと危険性」は,意外に知られていないと実感した.指導者(学校の教師も含めて)がそれを知らないことは重大な問題だが,それにも増して親が知らないというのは深刻な問題だ.親自身が我が子を追い詰めてしまうことになりかねない.もっとも知っていたら,もう少し(2国間の行ったり来たりについて)考えるかもしれないけれど・・・(
 

2011年10月3日月曜日

未来の家族

 10月1日に東広島市国際化推進協議会主催「多文化共生講演会」(シリーズ全8回)の1回目がありました.その会場で,とても考えさせられる出会いがありました.その方(Bさんとします)は日本人です.ご両親も日本人.外国で育ち.ご自分の母語(というか自分が一番しっくりくる言語)は育ったその国の言葉.日本語は,お話しする分には特に問題はありませんが,明らかにネイティブという感じはしない.こうなったのは,ご両親が「とにかくひとつの言語をきちんと身につけることが大切」と考えていたからだそうです.その国の学校に通い,その国の言葉で勉強して,その言語はしっかり身につきました.現在は日本で暮らし,家族の会話は日本語.子どもは日本の幼稚園に通っている.「子どもが小学校に入った時,学校の勉強を日本語で見てあげる自信が無い.どうしたらいいだろう?」と聞かれました.これはなかなか難しい問題です.ヤッチャルにできることがあれば,何でもお手伝いしますと伝えました.
 今,U-18に来ている子どもたちの中にも,このまま日本にいたら,日本語が自分の言語になる可能性が高い子(ISさん)がいます.ISさんが将来,自分の国に帰って子育てをすることになったら,どうなるのでしょうか.確かにひとつの言語(日本語)は,それなりに自分の中で確立するかもしれない.子育てするのに,自分が一番自信のある言語は日本語になるかもしれない.でも自分の国に帰り,そのまま定住となったら,子どもはその国の学校に通い,その国の言葉で勉強し,お友達と遊ぶことになるでしょう.その時,果たしてISさんは何語で子育てするのでしょうか?
 Bさんが育った国とISさんの母国は,実は同じ国です.全くの偶然なのですが,何か運命の皮肉(?)のようなものを感じてしまいます.つまりBさんとIHさんは,同じというか反対の環境に生きているわけです.多言語環境に育つ子は,何かひとつ言語を確立することが大切です(それが母語であれば理想的ですが).その際,その子自身,そしてその時点での家族(祖父母,両親,兄弟姉妹など)との関係を考慮します.しかし,どうやらもう一人(二人,三人・・・)忘れてはいけない人がいるようです.そう,それは未来の家族.Bさんとの出会いで,大切なことに触れることができたように思います.(