2012年4月3日火曜日

最高のロールモデル

外国につながるこどもたちとつき合いながら,いつもボス()が嘆くことがある.子どもたちが,自分の将来を描くことができない.だから,勉強に身が入らなかったり,目先のことしか考えられなくなる.良いロールモデルがいれば目標にしたり,自分にもできるかもしれないと思えるのに・・・


 今から10年前,はアメリカで暮らしていた.その時知り合ったのが彼(写真)である.当時,8年生(日本で言えば中学2年)〜10年生(高校1年).現在25才.アメリカの大規模スーパーWのストアマネージャー.先月彼に再会した時「日本で暮らす“外国につながる子どもたち”の励みになると思うからブログで紹介したい.写真も載せていいか?」と尋ねたら,「僕で良ければ」と快く承諾してくれた.


 彼の歩んだ道は決して平坦ではない.メキシコ生まれ,2才の時,家族そろってアメリカに移住(アメリカ国籍保持者ではないので,在留資格では苦労した).移住後,妹が3人生まれ,合計8人の大家族(彼は6人兄妹の3番目)となる.経済的に大変だったが,お父さんは頑張って正規の介護職についた.以後どうにか生活は安定する.
 彼はG4(小学校4年)までスパニッシュスクールに通い,スペイン語で学校生活を送っていた.家族の会話はもちろんスペイン語.G4の時転校し,いきなり英語の世界に投げ込まれる.以後ずっと英語での学校生活.転校した時,英語はほとんどわからなかった.ESLで英語を学び,話すことは得意になるが,勉強には苦労する(まあ,彼本来の性格ゆえでもあるのだが・・・).みんなより2年余計にかかって高校を卒業.その後,昼はコミュニテイカレッジ(勉強),徹夜のアルバイト,明け方睡眠の生活を3年間.スーパーWに就職.サブマネージャーを経て今年,ある新店舗のマネージャーに昇進.目下開店準備に追われている.


 彼が今の職に就き,昇進できた理由は二つありそうだ.ひとつはスペイン語,英語のバイリンガル(読み書きレベル)になれたこと.Wという職場には多くのメキシコ人がいる.上司はもちろんアメリカ人だ.そのどちらもが彼の能力を必要としたのだ.
 彼のスペイン語の読み書き能力の基礎は,低学年でのスパニッシュスクール通いで身についた.さらに家庭ではスペイン語を話すよう,親から厳しく指導されていた(英語のできない母親が,子どもたちが自分にわからない話をするのを嫌ったからだ).アメリカにいるメキシコ人の子どもの多くは,母語であるスペイン語を失ってしまう.親の言うことはわかっても,話す,読む,書くが出来る子はなかなかいない(日本にいる“外国につながる子ども”も,その多くが母語喪失の危機にある).“(低いレベルの)英語しかできないメキシコ人”とアメリカ人が並んだら,勝負は見えている.

 
 もう一つは,生まれながらのポジションのせいか,人とのつきあいが上手なこと.彼の妹(同じWで店員として働いている)に言わせれば
「兄さんは,店の同僚や上司と大変いい関係を築いている.だから昇進できたんだ.私は愛想がないからだめなの」
 10年前,彼は6人兄妹の3番目という中間管理職ポジションを嘆いていた.「生まれた時だって,だれも祝福してくれなかったし,何かにつけて我慢させられるし・・・」でも,その苦労は今の彼の貴重な財産になっている.
 
 スーパーWは能力主義だという.出自や学歴ではなく,仕事内容での勝負.彼にとって最高の職場が見つかったようだ(