2014年7月10日木曜日

平和で安全

 昨年から安芸津という海辺の町で日本語教室を開いている.このブログでも,何度かその様子を紹介してきた.

 この日本語教室はおしゃべり型というスタイルをとっている.ボランティアと学習者がペア(または小グループ)となり,いろいろな事をおしゃべりする.時には地元情報を交換したり,困り事の相談に乗ることもある.そうしているうちに,自分に必要な日本語を学び,身につけ,使えるようになる事を目指している.今年は文化庁の助成金を得ているので,基本的には文化庁の『カリキュラム案』に沿って話題を選んでいる.これまで自己紹介,公共施設の使い方(安芸津B&Gという公共施設で教室を行っている),交通ルール(自転車で教室に来る人が多いので)など,数多くのトピックの中から自分たちに必要な事柄を選んできた.
 文化庁のカリキュラム案は“日本全国で使える”ものである.それは趣旨から言って全く当然のことであるが,それでも地方の小さな教室に関わる者として,ほんの少し(??)物足りなさも感じてしまう.『地元を知ろう』というトピック(というより視点)があってもいいんじゃないかなあ.自分が住んでいる地元を知るというのは,生活の第一歩であるのみならず,自分がそこにいる存在理由,存在価値を再認識する事でもある.
 まあ文化庁も,地域日本語教室では「それぞれの地域の実情に合わせて工夫」することが大切だと言っている.ということは教室担当者に求められているのは『全国共通から地域密着への橋渡し』ということになる.こりゃあ腕の見せ所(?)かもしれない!!!

「なぜ自分はここに住んで(働いて,家族を持って)いるのか?」
こんな事は,母国にいればふつうはあまり考えない.しかし外国で暮らすとき,この問いは避けては通れない.むしろこの問いに対する自分なりの明確な答えがなかったら,心の安定を保つのは非常に難しくなる.余談だが,この問題に関して切実な悩みを抱えているのが子どもたちである.子どもはまず例外なく,自分の意思ではなく親に連れられて日本に来る.自分が来たくて来たわけじゃないのに,なぜこんな苦労をしなくてはならないのか・・悲痛な心の叫びが聞こえてくる.
 

 安芸津教室では,みんなが今暮らしている地域(安芸津,竹原など)について,その実情,良いところ,不便なところを話しあってもらった.遊ぶところもなく交通も不便,若者が激減している地域である.知らず知らず不満が積もっているのではないだろうか?

 まず,安芸津地区の人口ミラミッドをみんなに見せた.安芸津,大崎上島,竹原市,どこも見事なまでの少子高齢化を示している.頭ではわかっていたが,実際に目でみると,ここまできてるのか!!衝撃的である.比較のためにみんなの出身国,インドネシア,フィリピンなども見たが,こちらは見事な富士山型.違いは歴然としている.
 安芸津教室のメンバーは日本人の配偶者(奥さん),技能実習生が多い.不足する労働力を担っている人,子どもを産んで育てている人・・・みんながいる事で,地域はどれほど助かっているか,活気をもたらしてくれているか.そこをわかってくれたら,私としてはとてもうれしい・・・

 勉強の最後は,みんなが一言話す時間である.今日の共通質問は
「この地域の好きなところ?直して欲しいところ?」

 「食べ物がおいしい」というのは予想できる答えだった.確かに,じゃがいも,びわ,ぶどう,たけのこ,そして牡蠣,さかな,地域の誇る産物がたくさんある.特産物だけでなく,ふつうに食べる野菜,果物なども新鮮なものが簡単に手に入る.外国暮らしでは,食べ物が口に合わないというのは致命的な問題だ.その点は安心できるメンバーである.
 
 私がうれしかったというか驚いたのが,フィリピン奥さんトリオの答えである.みんな異口同音に「平和で安全だから大好きです」「安心して暮らせます.信号で道路を渡ることができます・・・」確かに道路を渡るのが命がけ(?)の国もあるからねえ・・・

 安全,平和,信頼できるパートナー,奥さんトリオは,ここ安芸津(竹原)で,自分にとって一番大切なものを得る事ができたようだ(