2015年7月9日木曜日

思考回避???

 このところ『ひとのこころのわかるやつ』(以下R)がひんぱんにU18に顔を出す.U18だけでなく,水曜日夜の日本語教室(大人向けなのだがU18の中学生も常連)にもやってくる.6年生で来日して現在高校2年生,彼の心境はいかに???

 彼は来日直後,小学校の関係でU18に参加した.彼の周囲に中国語話者の友達はたくさんいたが,ほとんどが帰国者家族で日本生まれ日本育ちであった.彼1人が留学生の子だったので,どことなく違和感があったことは否めない.彼は中学時代,ほとんどU18に来なかった.聞こえてくるのは,学校をサボっている,問題行動を起こしたなど,良くない噂ばかりである.しかし,もともと学力があったからなのだろう,どうにか全日制高校へ合格した(ここまでは,前回触れたことである).

 彼にいろいろ聞いてみた.
「親に日本に行くよ,といわれたときどう思った?」
R「行ってもいいかなと思ったよ.日本ってどんな所かなと思ったから.“好奇心”だよ」
「心配や不安はなかったの?」
R「別になかった.言葉が通じないとか,それがどういうことなのか想像できなかった
「日本にきてからはどうだった?」
R「つまらなかった.言葉はわからないし,勉強もわからない・・・」
「高校はどう?」
R「おもしろくないよ.一応行ってるけど.行かない日ある」
「学校休んだら何してるの?」
R「家で寝てるよ」
「町に遊びに行くんじゃないの?」
R「そんなのめんどくさいじゃん.お金もないし.ただ家にいて寝てるだけだよ」
「将来,やりたいことある?」
R「別にないよ.考えたこともない.アルバイトすれば食べていけるよ」
「でも,アルバイトじゃ,いつ首になるかわからないよ」
R「そういうときは就職する
「就職って,そんなに簡単じゃないと思うけどなあ」
R「大丈夫だよ.とにかくたべられればそれでいいわけだし.考えたってしょうがない

 話をしながら,なんとなくは彼の状態が『腑に落ちて』行く気がした.「将来やりたいこと?」なんていう質問は,彼にとっては愚問中の愚問だったことだろう.彼が5才くらいなら無邪気に「サッカー選手!野球選手!料理人!」と叫べばいい.しかし彼はもう17才だ・・・

 おそらく,彼は『将来は?』と聞かれても,どう考えていいかわからないのだろう.日本人の子なら「ケーキ職人になりたい」という希望を持てば,「料理学校や製菓学校に行く.そのためには高校卒業しなくちゃ.赤点とらないようにつぎのテストは気をつけよう.それともだれかに弟子入りっていう手もあるな」などとそこへ向かって道筋を考える.しかし彼の場合,道筋を考えるための基盤(知識,情報,経験など)が絶対的に不足している.もちろん日本語力の問題が大きいが,家庭環境を含めて他にもその要因はたくさんある.そして彼自身,そのことを敏感に感じ取っているようだ.

 彼の状態を表す言葉として私の頭に浮かんだのは「思考回避」である.彼は「考えてもしょうがない」という言葉を使っているが,考えることを無意識に(?)回避している状態になっている.

 外国につながる子どもたちとつきあっていると,よくこういう言葉を耳にする.
「ほんとに何にも考えていない.アルバイトして手元にお金が入ればいいと思っている.ずっとそれでいいと思ってるの?やりたいことを見つけないと,人生つまらないでしょ」

 そうできればどんなに幸せなことか.しかし,こう言う前に今一度,R君の言葉を思いだしてほしい.子どもたちが『(将来を)考える』ための基盤を与えるのは大人の責任であり,それこそが教育が果たすべき仕事なのではないだろうか・・・

 R君には,これからさらなる試練が待ち受けている・・・(

上海のビル群(にとっては30年ぶりでした)