2016年7月22日金曜日

おにいちゃんたち

 広島県では,梅雨が明け,学校も夏休みに入った.にほんごひろばU18は,夏休み活動,にじいろキャンプと,いそがしい夏になりそうだ!!

 にほんごひろばU18の活動は,2010年の夏休みにはじまった.参加第1号はN君だ.当時中学3年生,中国から来たばかりで,もちろん日本語は全くわからなかった.ほとんどが小学生の中,ひとり黙々と勉強していた姿を良くおぼえている・・・

 N君は20才になった.にほんごひろばU18(=18才以下)では卒業生というか,兄貴分という感じになっている.とはいっても,通常のU18に来ることはほとんどない.彼が来るのは大人の会話クラス「にほんごわいわい」だ.
*にほんごわいわい:東広島市教育文化振興事業団が主催する大人向け会話クラス.留学生,永住者,技能実習生など多様な人たちが,楽しく会話をすることを通じて日本語の力をつけることをめざしている.

 ところで,にほんごひろばU18に来る子は大きく3つに別れている.
①小中学生:学校に通い,宿題など自分の課題をもってU18にやってくる
②高校生:気が向いたときにやってくる子が多い.中には(定時制高校)登校前に日本語の勉強をしていく子もいる
③ハイティーンプロジェクト*:16才以上で(親の都合で)来日し,高校など通う学校がない子どもたち.アルバイトをしている子もいる.日本語の基礎をきちんと習得することをめざして,通常活動においてテキスト学習を行う.

 実は③の子どもたちは,当初「にほんごわいわい」に来ていた.しかし,大人を対象としているクラスなので,話の内容について行けない,基礎からの積み上げができないなど,問題点が浮かび上がってきた.そこで,新しいプロジェクトとなった次第である.

 そして最近,この3つに収まらない,第4のカテゴリーの人物たちが浮かび上がってきている.もともとU18に参加していたが,高校中退,仕事など,様々な事情でU18から遠ざかり,最近「にほんごわいわい」参加によって復活してきた子どもたちだ.その筆頭がN君で,さらにM1君,M2君などがいる.

 N君は2010年の夏から今まで,高校中退,交通事故,帰国,再来日,仕事も転々とするなど,多くの問題を抱えていた.ヤッチャルメンバーは「大変だなあ」と思うのだが,本人はいつもへらへらした感じで,なにも考えていないような雰囲気が漂っていた.「将来なにしたいの?どんな仕事に興味があるの?」と聞いても,さあねえ,わかんない,ラーメン屋の仕事なんかこりごりだよという答えしか返ってこなかった.日本語の力が不十分だったから,自分を表現することができなかったというのもある.それ以上に,こういう子どもたちに特有というか共通している「考えたって仕方ないから(無意識に?)考えることにフタをする」という状態になっていたようだ.それでも「にほんごわいわい」にくるのだから,何かを求めていたことだけは確かだ.

 そんな彼らも,まがりなりにも仕事をする中で,日本語を身につけてきている.ようやく自分を語ることができるようになってきた.そうなると,心の中を絞り出すようなことばが飛び出してくる.わたしは目を見張った.

「人生で消したいこと(=忘れたいこと,失敗の記憶など)」というトピック(にほんごわいわいの話題)には,名言が飛び出した.
「いちばん消したいことは,いちばん忘れられないことです」(実はN君にとって,それは事故でのケガだった.すさまじい痛みだったようだ.思い出させてゴメンN君)

 N1君は「15才で日本に来た.日本語はわからなかった.学校へ行ったけど勉強はわからなかった.いまは仕事をしている.朝早くから夜まではたらいている.日本語は何とかできるようになった.でも心に余裕がない.余裕がほしい」と綴った.

 学校へ行ったとき,そばでサポートする人がいたら,彼の人生は変わったかもしれない.今は,にほんごわいわいの日本人ボランティア,そしてヤッチャルメンバーもいる.彼に関心をもち,少しだけでも寄り添う人がひとりでも増えてほしい.

 N1君は,できれば専門学校に行きたいと言う.しかし何を学ぶか,自分には何ができるかがまだ見えていない.加えて日中の学校システムの違いもあって,高校卒業資格に問題がありそうだ.中卒で入れる専門学校は,非常に限られている・・・

 親の都合で自分の意志に関係なく母国を離れ,日本という異文化,そして日本語という第2言語で生活することを強いられている子どもたち.そんな子どもたちが青年になり.ようやく少しだけ自分を語ることができるようになった.わたしたちは,『おにいちゃんたち』の叫びに,真摯に耳をかたむけなくてはならないと思う(

どこでしょう?夏休みに行きたいね!